2021-01-29
「エンバーミング」をご存知でしょうか?日本では「火葬」が執り行われるためにあまり馴染みがない言葉かもしれませんが、土葬が主流の国々では遺体保存技術になります。生前の姿に近い形でお別れができるという点や衛生的な面から、近年日本でも注目されるようになっています。
そこで今回は、エンバーミングの目的や手順などの基本的なことについてご紹介します。
エンバーミングとは、ご遺体の保存・防腐・殺菌・修復を目的に、専門の資格を有する「エンバーマー」が行ったご遺体に対する特殊な処置のことを指します。簡単に言えば、「故人様を生前の姿により近づけ、とどめておくための技術」のことです。日本語では、「遺体衛生保全」や「死体防腐処理」と訳されます。
エンバーミングでは、ご遺体の消毒・殺菌を行った上で、消化器官などの残存物の除去を行うほか、ご遺体の一部を切開して血液などを排出すると共に防腐剤などの保存液をご遺体に注入します。こうすることで、ご遺体を10日間~2週間程度腐敗させることなく保存が可能となります。
エンバーミングの処置が必要とされるケースには次のようなもの挙げられます。
悲しいことではありますが、人は息を引き取った時点から腐敗が始まってしまい、見た目の劣化が進みます。たとえ保冷庫やドライアイスを使っても凍結するということではないため、腐敗の進行をある程度抑えることができますが完全に止めるには至りません。
このため、亡くなられてからご葬儀を執り行うまでに日数がかかってしまう場合には、腐敗防止や見た目の維持という点からエンバーミングが施されます。
航空機を用いて海外からご遺体の搬送を行う際には、安全上の観点からドライアイスを使うことができません。そのため、故人様のご遺体を保全するためにエンバーミングが施されます。
<例>
・旅行や出張などで海外に行かれた方が亡くなられて、ご遺体の状態で帰国される場合
・他国の方が日本国内で亡くなられて、ご遺体の状態で送還する場合
長い闘病生活によって顔がやせ細ってしまったり、薬剤や点滴の影響で顔が膨張してしまったりすることもあります。そのため、ご葬儀にご会葬してくださったご親族や友人・知人の方々が持つ故人様の生前の姿のイメージとかけ離れていることも珍しくありません。
このような場合、「元気だった時の姿でお別れをさせてあげたい」というご遺族の想いや「元気だった時の姿でお別れをしてもらいたい」というご本人の希望を叶えるために、エンバーミングが施されます。
日本でのエンバーミングは、「エンバーマー」と呼ばれるIFSA(一般社団法人
日本遺体衛生保全協会)の「エンバーマー資格試験」に合格してライセンスを持った方によって、エンバーミング施設で行われます。
エンバーミングの処置は大体3~4時間かかるとされており、一般的に以下のような流れになっています。
ご遺体の状態を確認し、身体表面の消毒処理と洗浄を行います。
ご遺体の洗髪や洗顔、保湿剤の塗布がなされ、故人様の顔やその周囲が整えられます。ご遺族の希望に応じて、髭剃りや産毛剃りなども行われます。
ご遺体の一部を1cm~1.5 cmほど切開し、そこから血液などを排出した上で、防腐剤などの保全液が注入されます。保存液は全身を循環して、体内の清浄や保全を行います。
食道・胃などの消化器官やその中に残っている食物、呼吸器官などの体内にある残存物を吸引して除去します。
体液を排出し保存液を注入した際に切開した箇所を縫合します。事故などで顔や体で損傷している箇所があれば修復し、再度全身の洗浄を行います。
故人様にご遺族から指定があった衣装や宗旨に則った衣装の着付けを行います。着付け後には、改めて顔の表情を整えるほか、整髪も行われます。
ご遺族からの希望、あるいは自然に見えるような死化粧を施して、生前の姿に近づけます。なお、納棺に関してはエンバーミング施設ではなく、ご自宅にご遺体を安置後に葬儀社立ち合いのもと、別途行われることもあります。
日本におけるエンバーミングの費用は、ご遺体の状態によって変動しますが、基本料金に関してはIFSA(一般社団法人
日本遺体衛生保全協会)が定めているために、大体同じくらいの金額になっています。
基本料金は、15~25万円とされており、以下の項目が含まれています。
・自宅と施設間の搬送
・エンバーミングの施術
・ケガや損傷の修復
・着付け
・死化粧
・納棺
故人様の体の処置としてエンバーミングと混同されてしまうのが、「エンゼルケア」です。
エンゼルケアとは、エンバーミングと同様に故人様の体の処置を指しますが、もともとは医療業界で「死後処置」と呼ばれていたものになります。病院で亡くなられた場合は看護師によって、高齢者施設やご自宅で亡くなられた場合は施設職員や葬儀社スタッフがエンゼルケアを行います。
病院で行われているエンゼルケアの処置の内容は一般的には以下のようになっています。
・点滴やチューブ類の処理、針刺跡の止血
・目や口を閉じる
・口腔、鼻腔のケア
・全身の清拭
・肌の乾燥対策(保湿)
・体液の漏れ防止対策
・寝間着(病院着)の着せ替え
このように、エンバーミングに比べると故人様の表面的な姿を整えることがエンゼルケアの主な目的になります。
近年、安全や衛生面、故人様と過ごせる時間などから、少しずつエンバーミングを行われる方が増えてきています。しかし、費用負担の面や故人様の体を一部でも切開することなどの理由からエンバーミングを避けられる方もいらっしゃいます。無用なトラブルを避け、皆が故人様とゆっくりお別れができるように、事前にしっかりとご家族やご親族と話し合った上で行うようにしましょう。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
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