
公開日2025/11/28|最終更新日2025/11/28
献体(けんたい)とは、医学の発展に貢献するため、死後に自らの体を提供することです。自分の死後、火葬されるだけで終わるのではなく、最期まで社会に役立ちたいと考える方も少なくありません。しかし、献体は誰でもできるわけではなく、一定の条件や手続きが必要です。
そこで今回は、献体の意味や手続き方法、献体された方のご葬儀、献体のリスクなどについて解説します。
献体とは、医学の教育・研究のために、自らの死後に、遺体を無償で提供することを指します。これは、医療従事者の育成や医療の発展に貢献する行為とされています。
医学・歯学の教育において、解剖実習は長年にわたり重要な役割を担っており、現在も大学や研修施設で広く実施されています。人体を実際に見て、手で触れながら学ぶことで、医学生や研修生たちは解剖学の理解を深めるとともに、医師や歯科医師として必要な知識・技術、そして生命に対する敬意や倫理観を身につけていきます。
このように、献体によって提供されるご遺体は、未来の医療を支える貴重な学びの機会を与えてくれるものであり、社会に対する大きな貢献となるのです。
解剖実習では、講師の指導のもと、1体のご遺体を部位ごとに丁寧に分け、長期にわたって学習が行われます。実習後は、深い敬意をもって清められ、適切な管理が徹底されます。
なお、著名な献体者としては作家・夏目漱石が知られています。ご遺族の意思により、当時の東京帝国大学(現・東京大学医学部)に遺体が提供され、医学の進歩に大きく寄与しました。
現代では、「亡くなった後も医療に恩返しがしたい」「社会の役に立ちたい」と考え、献体に関心を持つ方が増えています。実際、献体による解剖実習は、将来の医師を育てるうえで欠かせない教育の一環であり、多くの命を救う医療の原動力ともなっています。
ただし、死後に突発的に献体を申し出ることはできません。というのも、「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」に基づき、生前に所定の手続きを完了していることが献体の前提条件とされているためです。この手続きでは、本人の意思だけでなく、ご家族全員の同意も必要とされます。
したがって、ご本人が亡くなった後に何の手続きもされていなかった場合、その時点での献体は認められません。
以下に、一般的な手続きの流れをご紹介します。
①献体を希望する施設から申込書を取り寄せます。
②申込書に必要事項を記入し、施設の指示に従って書類を提出します。
③書類が受理されると、「献体登録証」または「会員証」が発行されます。
④登録証や会員証は、ご本人が亡くなった際に献体の意思を証明するために必要です。大切に保管しておきましょう。
なお、この手順は一般的な手続きとなるため、申し込み先の大学や医療機関によっては順番が異なったり手順の増減が発生したりとさまざまです。
献体は、ご遺族が大学や医療機関に対して無償でご遺体を提供するものであり、献体による謝礼や報酬が支払われることはありません。
一方で、解剖が終了した後の火葬にかかる費用は、多くの場合、施設側が負担します。また、ご遺骨がご遺族のもとに戻るまでの期間は、平均で1〜2年ほどかかり、解剖の進行状況によっては3年程度かかることもあります。
ご遺体の搬送費についても、一般的には施設側が負担しますが、搬送距離が長い場合には、ご遺族が一部または全額を負担するケースもあります。搬送費用が心配な場合は、あらかじめ大学や医療機関に確認しておくと安心です。
献体するには、死後48時間以内が望ましいとされている施設がほとんどです。では、献体をする場合、故人様のご葬儀はどのように執り行われるのでしょうか。
亡くなってから48時間以内にご葬儀を執り行うとなると、想像以上に時間が足りません。そのため、「一日葬」もしくは「お通夜だけ執り行う」などお別れの時間を短縮する方法をとるのが一般的です。ご葬儀が終わり、出棺式を済ませた直後に、大学などの施設へご遺体を直接搬送するケースが多く見られます。
献体を予定している場合は、事前にその旨を葬儀社へ伝えておくとよいでしょう。大学や医療機関との連携も含めた段取りを、スムーズに進めてもらえます。
献体後に、ご本人のご遺体がない状態でご葬儀を行うケースもあります。「ご遺影や位牌のみで執り行う儀式」であり、ご遺体を伴わない分、通常のご葬儀と比べて時間的にも気持ちの上でも、比較的ゆとりを持って進められることが特徴です。
ただし、こうした形式のご葬儀を行う際は、あらかじめ葬儀社や僧侶に事情を説明し、理解と了承を得ておくことが大切です。
献体としての役割を終え、故人様のご遺骨が戻ってきた後に、お別れ会や「骨葬(こつそう)」を行うご遺族もいらっしゃいます。骨葬とは、ご遺影や位牌とともに、ご遺骨を祭壇に安置して執り行うご葬儀の形態です。中には、ご葬儀を行わず、ご遺骨の受け取り後に納骨式のみを行う方もおられます。
また、施設によっては火葬の際にご遺族をお招きするケースや、お骨拾いをさせてくれるところもあります。こうした対応について気になる方は、事前に大学や医療機関の公式ホームページで確認しておくと安心です。
ご遺族の考え方や価値観はさまざまですが、後悔のないお別れを迎えるためにも、生前のうちに献体を希望されるご本人としっかり話し合っておくことが大切です。
ここからは、献体をお考えの方に向けた注意点、つまり献体のリスクをご説明します。
献体は、施設側に預けてからすぐに解剖が実施されるわけではありません。実習のために、防腐処理を行うなどの下準備がある上で実習のスケジュールが組まれ、遺骨が戻ってくるまで一般的に1~3年かかります。
献体は、ご本人のご遺体を亡くなってから48時間以内に施設へ引き渡すことが一般的とされています。そのため、ご葬儀を行わない場合は、48時間ギリギリまで故人様と対面しながらお別れの時間を過ごすことが可能です。
一方で、ご葬儀を執り行うことを希望される場合は、限られた時間内で全ての準備と儀式を進める必要があるため、ゆっくりとしたお別れが難しくなる可能性があります。
こうした事態に備え、できるだけ円滑にご葬儀を進めたいとお考えであれば、献体の意思が固まった段階で、生前のうちに葬儀社へ相談しておくことをおすすめします。事前の打ち合わせによって、万が一の際の対応もよりスムーズになります。
「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」では、献体を行うためにいくつかの条件が定められています。具体的には、本人の明確な意思があること、ご家族全員が解剖に同意していること、そして事前に献体登録が完了していることが必要です。
そのため、身寄りのない単身の方や、ご家族の同意が得られない場合には、原則として献体登録を行うことはできません。
さらに、以下のような事情がある場合には、登録済みであっても、献体を受け付けてもらえないことがあります。
・事故などで遺体の損傷が激しい場合
・亡くなってからの時間経過で腐敗が進んでいる
・病による内臓の壊死
・死因が肝硬変
・生前、結核、エイズ、梅毒、ウィルス性肝炎、コロナなど感染症のリスクがある
また、臓器のドナー登録をしている、または生前に臓器を提供している場合や、大学側で献体が過剰になっている場合も断られることがあるようです。
献体を前提としたご葬儀は、形式が簡略化されることが多く、場合によってはご葬儀自体が行われないこともあります。そのため、香典を辞退されるケースも少なくありません。
ただし、遺影や位牌を用いた簡易的な儀式や骨葬など、香典を受け取る形式でご葬儀を行うこともあります。そのため、香典の有無についてはご遺族のご意向に従うことが大切です。
なお、香典をお渡しする場合は、金額の目安としては一般的なご葬儀の相場を参考にするとよいでしょう。
献体は、医療の発展を支え、社会に貢献する大切な制度です。しかしその一方で、故人と直接対面してお別れをしたいと願う方や、宗教的な価値観、あるいは解剖に対する抵抗感を抱くご家族のお気持ちにも配慮する必要があります。
そのため、献体を希望される場合は、ご本人の意思だけでなく、ご家族や周囲の方々とも十分に話し合いを重ね、理解と同意を得ておくことが何より大切です。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
故人様が亡くなられた時に、ご遺族は通夜やご葬儀、告別式に火葬など、さまざまな儀式を経なければならない局面に立たされることでしょう。しかしながら、ご葬儀の費用は決して安くないため、故人様に対する哀悼の意はあっても、費用が捻出できず大変な思いをする方もいらっしゃるかもしれません。
最終更新日2023/11/24
現代の日本では、99%以上のご遺体が火葬されています。火葬は火葬場で行われますが、そもそも火葬場とは、都道府県知事が火葬を行うための火葬場として許可した施設を指します。
最終更新日2023/11/10