
公開日2023/03/24|最終更新日2026/07/03
葬儀・告別式の終盤、故人様を霊柩車へ納め、火葬場へと向かう「出棺(しゅっかん)」の儀。これは、住み慣れた家やご家族と永遠に別れを告げる、葬儀の中でも最も厳粛かつ悲しみが深い場面です。
このとき、ご遺族様は深い悲しみの中にありますが、同時に参列者の前で故人様の「分身」である位牌や遺影を預かり、正しく運ぶという重要な役割を担います。また、火葬場から戻る際には、故人様は「ご遺骨」という新しい姿に変わられています。
本記事では、出棺から火葬、そして還骨(かんこつ)までの移動において、「誰が何を持つべきか」「どのような順序で歩むべきか」を徹底解説します。いざという時に戸惑わず、故人様を送り出すための知識を身につけましょう。
出棺の際、祭壇から霊柩車へ向かう行列には決まった順序があります。これを「出棺の隊列」と呼びます。
位牌は、原則として喪主 (もしゅ)が持ちます。仏教において、位牌には故人様の魂が宿っていると考えられています。つまり、位牌を持つことは「故人様そのものの手を引いて歩む」ことと同義です。
・喪主の役割: 故人の配偶者、あるいは長男・長女が務めるのが一般的です。
・持ち方: 両手で位牌の台座をしっかりと持ち、胸の高さで捧げるように持ちます。このとき、位牌が傾かないよう垂直に保つのがマナーです。
遺影は、喪主の次に故人様と縁の深い親族が持ちます。例えば、配偶者が喪主で位牌を持つ場合、長男や長女が遺影を持つのが通例です。
・優先順位: 一般的には、子、孫、兄弟姉妹といった血縁の近い順に決まります。
・持ち方: 遺影の額縁を両手でしっかりと抱きかかえるように持ちます。写真が参列者からよく見えるよう、やや前方に向け、胸元で安定させます。
棺はご遺体と副葬品が入っており非常に重いため、通常は親族の男性6名~8名程度で運びます。
・持ち手の選び方: 故人の子、甥、孫などの若い男性が中心となりますが、最近では葬儀社のスタッフがサポートしたり、台車 (棺台車)を使用して霊柩車まで移動させたりすることも一般的です。
・家族葬での変化: 小規模な葬儀では、男女問わず、参列者全員が棺に手を添えて運ぶこともあります。
・順番: 行列の最後尾は棺となります。先頭から「僧侶」→「位牌(喪主)」→「遺影」→「棺」という順序で進むのが最も標準的です。
出棺の瞬間から火葬場に到着するまでには、いくつかの重要な作法が存在します。
霊柩車へ棺を納める際、葬儀スタッフは必ず「故人様の足側」を車の進行方向 (先頭)に向けます。これは、古くからの迷信で「頭を先にすると、故人の魂が家に戻ってきてしまう(成仏できない)」と考えられているためです。「二度と家に戻らず、迷わずあの世へ向かってほしい」という、現世からの決別の願いが込められています。
霊柩車には、故人様に最も近い人が同乗します。
・同乗できる人数: 多くの霊柩車は、運転手のほかに助手席と後部座席があり、合計2~3名が乗車できます。
・同乗者: 位牌を持った喪主と、遺影を持った親族の2名が乗るのが一般的です。
・その他の親族: 霊柩車に乗れない親族は、葬儀社が手配したマイクロバスや自家用車に分乗して火葬場へ向かいます。
見送る参列者は、霊柩車が動き出したら合掌して頭を下げ、車が見えなくなるまで静かに見送ります。
・服装の注意: 冬場など寒い時期でも、出棺の瞬間はコートを脱いで見送るのが正式なマナーとされています(体調に不安がある場合は無理をしないでください)。
・クラクション: かつては出棺の際に霊柩車が大きくクラクションを鳴らす習慣がありましたが、最近では近隣住民への配慮から鳴らさないケースが増えています。
火葬が終わると、故人様は「遺骨」となって戻られます。この帰り道では、遺骨が増えるため、持ち手の役割が一部変わります。
火葬場へ行く時と同様、位牌は喪主が持ちます。魂の依代(よりしろ)であるため、最後まで責任を持って運びます。
新しく加わるのが「骨壺(ご遺骨)」です。これは非常に重く、かつ最も壊れやすい大切なものです。
・持ち手: 一般的には、喪主の次に近い親族(長男など)が持ちます。
・注意点: 陶器製の骨壺を桐箱に入れ、さらに風呂敷で包んだ状態になります。非常に滑りやすいため、落とさないよう下から抱え込むように持ちます。高齢の方には重すぎる場合があるため、その際は体力のある男性親族が代わるのが賢明です。
ご遺骨を持つ人が増えるため、遺影はその次に縁の深い親族が担当することになります。
地域によっては、火葬場へ行く道と、火葬場から帰る道(または斎場から自宅へ戻る道)をあえて変えることがあります。
・理由: これは「迷い道」や「四辻 (よつつじ)」という考えに基づいています。行きと同じ道を通ると、故人の霊が迷って家についてきてしまうのを防ぐため、あえて異なるルートを通ることで、霊を惑わせ、確実にあの世へ送り出すという意味があります。
・現代の解釈: 現在では「故人が最後に通った道をそのまま辿るのは忍びない」というご遺族様への配慮や、物理的に交通事情でルートが変わることもありますが、この風習を大切にする地域では、事前に運転手にルート変更を依頼することもあります。
北陸地方では、浄土真宗の教えが深く浸透しており、一部で特徴的な習慣が見られることがあります。
・赤いロウソク: 葬儀では白いロウソクが一般的ですが、浄土真宗では「還骨法要(火葬から戻った後の法要) 」から赤いロウソク (朱ロウソク)を用いる地域があります。これは「故人が無事に極楽浄土へ往生したことを祝う」という意味が含まれています。
・雪国ならではの配慮: 冬季の出棺では、霊柩車までの道のりに雪があるため、親族が総出で雪かきをしたり、棺が濡れないよう細心の注意を払います。
・食事の習慣: 火葬を待つ間に「精進落とし」の前に軽食 (お斎)を摂るスタイルも地域によって異なります。
出棺時に乗った霊柩車は、火葬場までの「片道利用」が基本です。火葬場から斎場や自宅へ戻る際は、霊柩車はもういません。
・手配: 帰りのためにタクシーやマイクロバス、自家用車を確保しておく必要があります。喪主は自分の移動手段が確保されているか、事前に葬儀社と確認しておきましょう。
火葬場では、収骨 (しゅうこつ)が終わった後に「火葬証明書(埋葬許可証)」を受け取ります。これは将来の納骨に不可欠な書類です。
・管理: 多くの場合は骨壺を包む風呂敷の中に一緒に入れられますが、喪主が位牌や遺骨で両手が塞がっているため、別の親族が書類を預かるなどの連携が必要です。
出棺から火葬、そして帰還までのプロセスは、ご遺族様にとって肉体的にも精神的にも非常にハードな時間です。しかし、位牌や遺影、そしてご遺骨を丁寧に運ぶその姿こそが、参列者の心に刻まれる「故人様への最後の奉仕」となります。
・位牌は喪主、遺影は長男、遺骨は力のある親族。
・胸に抱き、落とさないよう慎重に歩む。
・道を変え、故人の成仏を祈る。
こうした一つひとつの所作には、先人たちが築いてきた「生者と死者の境界を区切るための智慧」が詰まっています。基本のマナーを知っておくことで、当日の混乱を避け、穏やかな気持ちで故人様を見送ることができるでしょう。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
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